以下の記事で、自律神経は交感神経と副交感神経で成り立っているという解説をしました。

ですが、交感神経や副交感神経というのは物理的に存在する神経の名称ではなく、 神経が持つ機能の名称を表しています。

この記事では、自律神経をはじめとする人体の神経について、もう少し掘り下げた解説をしたいと思います。

中枢神経と末梢神経

人体の神経は大きく分けて中枢神経と末梢神経に分けることができます。

神経の分類、交感神経線維と副交感神経線維を含む神経について /images/ins-reminder.jpg

これは神経の構成による分類です。 中枢神経は人体の中心に位置する神経で、脳と脊髄のことを指します。 これに対し、中枢神経から体の細部まで伸びているのが末梢神経です。

末梢神経は外部からの刺激を中枢神経に伝えるはたらきをし、中枢神経はその刺激に応じた次の行動の決定、末梢神経への指示を司っています。

末梢神経における解剖学としての分類

末梢神経はさらに、起こり(神経がどこから伸びているか)によって2つに分類でき、 脳から伸びているものを脳神経、脊髄から伸びているものを脊髄神経と呼びます。

末梢神経における機能的な分類

末梢神経に分類される神経は、それぞれの神経が持つ機能によって自律神経系と体性神経系に分類できます。

呼吸、消化、発汗、体温調節など、自分の意志とは別に自律したはたらきをする神経を自律神経 と呼び、自律神経は活発な活動を支える交感神経と、疲労回復などの休息を司る副交感神経によって成り立っています。

神経の分類、交感神経線維と副交感神経線維を含む神経について /images/ins-stick.jpg

これに対し、外部からの刺激とそれに対する行動を起こすのが体性神経です。 人体における目や手、鼻などの外部の刺激を受け取る器官を受容器と呼び、 その刺激に反応して動く筋肉などの器官を効果器と呼びます。

体性神経はこの受容器からの情報を中枢神経に伝え、さらに中枢神経が決定した行動を効果器に伝えるはたらきをします。

体性神経における機能的な分類

神経の分類、交感神経線維と副交感神経線維を含む神経について /images/ins-sports.jpg

神経は神経線維によって形成されており、この神経線維は知覚性のものと運動性のものがあります。 この機能を持つ神経のことをそれぞれ、知覚神経と運動神経と呼びます。

知覚神経は皮膚の触圧覚(触られたり押されたりしている感覚)や温痛覚(温度や痛みの感覚)を感じるためのもので、 運動神経は骨格筋を動かすための体性運動神経と、内臓運動を起こすための内臓運動神経に分類されます。

つまり、知覚神経は受容器から中枢神経に向かう神経であり、運動神経は中枢神経から効果器に向かう神経です。

この情報の伝達方向によって、受容器から中枢神経に情報を伝達する神経を求心性神経、 中枢神経から運動の指示などを筋肉などの効果器に伝える神経を遠心性神経と呼びます。

機能による名称 伝達方向による名称 情報伝達方向
知覚神経 求心性神経 受容器から中枢神経へ
運動神経 遠心性神経 中枢神経から効果器へ

脳神経と自律神経機能の関係

神経の分類、交感神経線維と副交感神経線維を含む神経について /images/ins-womans-back.jpg

ここまでで、神経の大まかな分類について解説してきました。

ここで大切なのが、これは機能的や特性の分類であって、自律神経や体性神経といった名前の神経が存在するわけではない ということです。 神経は神経細胞ごとに役割を持ち、機能的な総称として自律神経や体性神経と呼ばれます。

とくに交感神経については、脊髄から伸びる末梢神経としてあらゆる部位に存在しています。 副交感神経については交感神経とは異なり、脳神経のいくつかが副交感神経としての機能を持っています。

12対の脳神経

前述したとおり、神経は解剖学的に見ると脳神経と脊髄神経に分類できます。

脊髄神経は末梢神経として体中に伸びていますが、脳神経については、12本の固有な神経が存在し、それぞれに名前がついています。

結論を言ってしまうと、副交感神経としての機能を有するのは、動眼神経、顔面神経、舌咽神経ぜついんしんけい 、迷走神経の4つです。

第I脳神経 嗅神経

名前の通り、嗅覚を司る神経です。 鼻から得た臭いの情報を脳に伝える役割を持ちます。

嗅神経(きゅうしんけい、olfactory nerve)は、12対ある脳神経の一つであり、最も頭側から分岐していることより第I脳神経とも呼ばれる。嗅覚を司っており、運動機能を持たない純知覚性の脳神経である。

嗅神経 - Wikipedia

第II脳神経 視神経

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こちらも名前の通り、視覚を司る神経です。 脳神経は脳幹から起こるものがほとんどですが、実は嗅神経と視神経は脳幹ではなく間脳から分岐しています。 (間脳も脳幹の一部であるとする考え方もありますが、ここでは別のものとします。) このこともあり、中枢神経ではなく末梢神経として認識される場合があります。

視覚を司るため、実際に眼球の網膜まで神経が伸びています。

第III脳神経 動眼神経

動眼神経は中脳から起こる神経で、眼球を動かしたり瞳孔の制御などを司っています。

瞳孔の散大や収縮は自律神経の機能に含まれており、動眼神経は副交感神経としての機能を有しているということになります。

第IV脳神経 滑車神経

名前からはイメージのつきづらい神経ですが、上斜筋と言われる筋肉を動かすための神経です。 上斜筋は眼球を動かすための筋肉で、眼球の上部にあり、目を内側、下側に向ける動き方をします。

第V脳神経 三叉神経

三叉神経はもっとも大きな脳神経で、耳の前あたりから顔を覆うように伸びている神経です。 三叉神経は体性運動性の神経線維と知覚性の神経線維から成り立ち、目に伸びる眼神経、鼻に伸びる上顎神経、下顎に伸びる下顎神経の3枝から構成されます。

知覚神経と運動神経から成り立っているため、顔の触圧覚や温痛覚、咀嚼などを司ります。

三叉神経[Ⅴ] | 慶應義塾大学解剖学教室

第VI脳神経 外転神経

外側直筋と呼ばれる、眼球を外側(耳側)に動かすための筋肉を制御するのが外転神経です。 外転神経が麻痺すると、眼球を外側に向けることができず、常に内側を向いてしまい、複視(物が二つに見えること)の症状があらわれます。

眼の筋肉(外眼筋)について / ビジョンケア[Hattori Opticians inc. メガネの服部]

第VII脳神経 顔面神経

顔面神経は表情筋を制御している神経です。 茎乳突孔けいにゅうとつこう という側頭部の耳付近から伸びており、顔全体を覆うような形をしています。

顔面神経は副交感神経機能として、涙の分泌や鼻の粘膜、唾液の分泌なども司っています。

第VIII脳神経 内耳神経

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内耳神経は前庭蝸牛神経ぜんていかぎゅうしんけい とも呼ばれ、平衡感覚や聴覚を司っています。

耳には蝸牛かぎゅう といわれる螺旋状の器官があり、聴覚を司る蝸牛神経かぎゅうしんけい を持っています。 さらにこの蝸牛かぎゅう の上に平衡感覚を司る三半規管があり、 この蝸牛かぎゅう と三半規管の間を前庭と呼びます。

前庭は重力や加速度を知覚するための前庭神経という神経を持つ器官で、内耳神経はこの前庭神経と蝸牛神経かぎゅうしんけい によって構成されています。

第IX脳神経 舌咽神経ぜついんしんけい

舌咽神経ぜついんしんけい は脳幹から起こり、喉のほうに伸びている神経です。 知覚、運動、味覚を司る多機能な神経で、副交感機能として唾液の分泌を促すなどの機能も持ちます。

第X脳神経 迷走神経

神経の分類、交感神経線維と副交感神経線維を含む神経について /images/ins-barefoot.jpg

脳神経はほとんどが頭部付近で完結する神経です。 ですが迷走神経だけ例外で、脳幹から起こり、ほとんどの内臓まで長く伸びています。 そのこともあり、あらゆるところに伸びて迷走しているような様から迷走神経と呼ばれています。

迷走神経は内臓の運動や胃腸の蠕動運動、心拍数の調整、血圧の制御や発汗など、副交換神経機能のほぼすべてを有しています。

第XI脳神経 副神経

副神経は後頭部から伸び、首の横にある胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきん と背中から首までの表面にある僧帽筋そうぼうきん の制御をしている運動神経です。

副神経の一部は迷走神経と合流しており、迷走神経と同様のはたらきをするとも言われています。

第XII脳神経 舌下神経

舌下神経は主に舌を動かすための運動機能を提供する神経です。 甲状舌骨筋、肩甲舌骨筋、胸骨甲状筋、胸骨舌骨筋といった、首の周りに位置する筋肉の制御も行います。

副交感神経機能を持つ脳神経

神経の分類、交感神経線維と副交感神経線維を含む神経について /images/ins-mannequin.jpg

上記にまとめた脳神経を見てみると、副交感神経というのは動眼神経、顔面神経、舌咽神経ぜついんしんけい 、迷走神経を指すことがわかります。 なかでも迷走神経については副交感神経機能と言われる機能のほとんどを有しており、副交感神経とほぼ同義と言える神経です。

このサイトでも交感神経や副交感神経という言葉は何度も登場していますが、それは機能としての名前であって、 実際に人体に存在する神経とは別物であることを理解したうえで読んでいただけると幸いです。