人間は運動をするなどして体温があがると、自分の意思にかかわらず汗をかきます。 これは自律神経が正常にはたらいているためですが、体温に関係なく汗をかいてしまう多汗症という病気があります。

多汗症は自律神経の乱れやホルモンバランスの乱れ、別の病気の弊害が原因となることがほとんどで、 恒久的な治療や手術によって根本的に治療するものなど、いくつかの治療方法があります。

この記事では人が汗をかくしくみと理由、多汗症の種類や原因、治療方法について解説します。

人が汗をかく理由と汗の役割

人が汗をかく理由、多汗症の種類と原因、治療について /images/ins-runner.jpg

人が汗をかくのは体温調整のためである、というのは有名な話です。

体を動かすなどして体温があがった場合、交感神経という自律神経が発汗を促し、汗が皮膚で蒸発することで熱を放出するという仕組みになっています。

交感神経は、もう1つの自律神経である副交感神経と相互に作用しています。 この2つがタイミングよく切り替わることで、人体の生理現象が効率よく作用するのです。

人が汗をかく理由、多汗症の種類と原因、治療について /images/ins-balance.jpg

しかし、日常的なストレスや生活習慣が原因で、この自律神経のバランスが乱れる場合があります。 自律神経は末梢神経系という全身に張り巡らされている神経であるため、この神経の不調は全身にさまざまな症状となってあらわれます。

この時にあらわれる症状の総称、またはその症状が出ている状態のことを、自律神経失調症といいます。

多汗症も自律神経失調症でみられる症状の一種です。 多汗症の原因は自律神経以外の場合もありますが、自律神経が関係していることがほとんどです。

汗の種類

実は、ひとくちに汗といっても3種類に分類できます。

温熱性発汗

体を動かした時の汗が温熱性発汗です。 体温が高くなると脳に障害を与えてしまうため、自律神経がはたらきかけ発汗を促します。

精神性発汗

緊張した時や驚いた時にかく汗が精神性発汗です。 多汗症でかく汗は、ほとんどが精神性発汗に分類される汗です。

味覚性発汗

あまり意識することはありませんが、人は食事をした時に汗をかきます。 これは味覚性発汗といって、生理現象の一つです。

普通は辛いものを食べた時に鼻や額に汗をかく現象ですが、甘いものや酸っぱいものでも起こることがあります。

食事時に必要以上に汗をかいてしまう、味覚性多汗症という種類の多汗症があります。

多汗症とは

多汗症という病気は認知度が低く、最近になってようやく名前をよく聞くようになりました。

読んで字のごとく、体温に関係なく汗を必要以上にかいてしまう病気 で、日常のさまざまな場面に支障をきたします。

多汗症(たかんしょう)とは、体温の調節に必要な通常の範囲を超えて、発汗が異常に増加することを指す症状である。手、足、腋の下、顔などに、日常生活に支障を来たす程の発汗過剰を認める疾患である[1]。

多汗症 - Wikipedia

多汗症はその症状の性質から、日常生活にさまざまな影響を与えます。 例えば、衣類の汗ジミ、汗による集中力の低下、いじめへの発展など、これによってうつ病になってしまうケースは少なくありません。

多汗症の種類

人が汗をかく理由、多汗症の種類と原因、治療について /images/ins-palm.jpg

多汗症は症状が出る部位によって、全身性多汗症と局所性多汗症に分類して考えることができます。 また、局所性多汗症については掌蹠多汗症しょうせきたかんしょう (手のひら、または足の裏の多汗症)と、食事をした時に症状が出る味覚性多汗症に分類できます。

多汗症は発症の種類によっても分類でき、先天性である場合は原発性多汗症、後天性である場合は続発性多汗症と呼ばれます。

掌蹠多汗症しょうせきたかんしょう

手のひら、または足の裏で局所的に発汗するのタイプの多汗症です。 それぞれ手掌多汗症しゅしょうたかんしょう足蹠多汗症そくせきたかんしょう と呼びます。

ものを持つ時に発汗する程度のものから、重度の場合は汗がしたたり落ちるほどのものまであります。 多汗症の中でももっとも多いタイプです。

腋窩多汗症えきかたかんしょう

脇で局所的に発汗するタイプの多汗症です。 掌蹠多汗症しょうせきたかんしょう についで多いタイプの多汗症です。

頭部多汗症

頭部に局所的に発汗が発生するタイプの多汗症です。

顔面多汗症

顔から局所的に発汗するタイプの多汗症です。

味覚多汗症

食事時に汗をかいてしまうタイプの多汗症です。

食事の時に汗をかくのは味覚性発汗という生理現象の一つですが、必要以上に汗をかいてしまうのが味覚性多汗症です。

原発性局所多汗症診療ガイドライン 2015 年改訂版 | 公益社団法人日本皮膚科学会

多汗症の原因

人が汗をかく理由、多汗症の種類と原因、治療について /images/ins-mannequin.jpg

多汗症はさまざまな理由が原因になりえますが、もっとも多いのが自律神経の乱れです。 とくに女性の場合は、ホルモンバランスの影響が自律神経の乱れにつながること があり、結果として多汗症の症状がでる場合があります。

自律神経の乱れ

自律神経は人体の活動と休息を司る神経です。 鼓動や発汗、発熱など、自分の意志では制御できない生理的現象が自律神経によるものです。

自律神経は活発な活動を司る交感神経と、疲労回復などを行う副交感神経が相互に機能することによって成り立っています。 これらの神経はストレスなどに弱く、それぞれの神経の切り替えがうまくできなくなることがあります。

自律神経のうち、交感神経は発汗の管理もしています。 運動して体温があがった時などは交感神経のはたらきで発汗が促されますが、 この交感神経が必要以上にはたらき過ぎている場合、多汗症の症状が出る場合があります。

ホルモンバランスの乱れ

人が汗をかく理由、多汗症の種類と原因、治療について /images/ins-womans-back.jpg

ホルモンの分泌は脳の視床下部ししょうかぶ という部分で行われています。 視床下部ししょうかぶ はホルモンの分泌だけでなく自律神経の調整を行っているため、 ホルモンバランスが乱れている時は同時に自律神経が乱れがちです。

女性の場合は生理や妊娠によってホルモンバランスが崩れやすく、同時に多汗症になってしまうことがあります。

別の病気の弊害

一般的ではない原因として、別の病気の症状として多汗症になる場合があります。

主に甲状腺や下垂体の疾患がそれにあたりますが、糖尿病や痛風なども多汗症の症状をひき起こすことがあります。

多汗症の治療方法

多汗症の原因は自律神経の乱れがほとんどです。 これはストレスや生活習慣が原因になっていることが多く、一概にどうすれば治ると言えるものではありません。

人が汗をかく理由、多汗症の種類と原因、治療について /images/ins-hospital-architecture.jpg

また、すべてが自律神経の乱れのせいというわけでもないため、 まず医師の判断を仰ぐのは正しい判断です。

多汗症について病院で受診する場合、まず考えられる診療科目は皮膚科や美容外科、整形外科です。 初めて受診する場合は、まず皮膚科に行くとよいでしょう。

多汗症の治療は何種類かあり、皮膚科であればたいていの治療を受けられる場合がほとんどです。

また、多汗症の原因が何なのかを医師目線で判断するためにも、まずは病院で受診するのが理想的です。

塩化アルミニウム外用療法

塩化アルミニウムは薬局やコンビニに売っているデオドラントスプレーなどにも含まれており、 エクリン汗腺という汗を分泌するための汗腺に炎症を起こすことで、発汗を抑える効果があります。

多汗症の治療として使う場合は、塩化アルミニウムを水に溶かしたものを塗布するといった治療になります。 これは定期的に塗布する必要があるため根本的な解決とは言えませんが、ある程度確実な効果が見込めます。

塩化アルミニウムでの治療方法

塩化アルミニウムでの治療は就寝前に行い、朝に洗い流す必要があります。

塩化アルミニウムの塗り薬が市販されているので、そちらを利用するのが手軽です。 もし自分で塩化アルミニウムを水に溶かす場合は、濃度を20%以下にしないと発疹や肌荒れ、かゆみを引き起こす場合があります。 そういった症状が出た場合はすぐに使用をやめましょう。

水道水イオントフォレーシス療法

単にイオントフォレーシス療法と呼ばれる場合もあります。 これも塩化アルミニウムでの治療と同様で高い効果が期待できますが、根本的な解決にはなりません。

イオントフォレーシスでの治療は、まず患部を水道水に浸け、そこに電流を流すことで水素イオンを発生させます。 この時に発生したイオンが汗腺細胞の細胞膜のイオンの出入りを阻害し、発汗の抑制が期待できます。

イオントフォレーシス<多汗症治療ガイド@てのひらの機嫌(多汗症ネット)

腋窩多汗症えきかたかんしょう や味覚多汗症の場合はイオントフォレーシスでの治療はできず、掌蹠多汗症しょうせきたかんしょう (手のひら、または足の裏の多汗症)のみが治療対象です。

イオントフォレーシスでの治療は、通院が必要な上に中断すると効果がなくなってしまうため、定期的な通院が前提となってしまいます。 ただ、家庭用の治療器もあるため、工夫次第では自宅での治療も可能です。

水道水イオントフォレーシス療法は、保険適用できる場合があります。

ボトックス注射

多汗症の治療には、肌のシワを伸ばしたり、わきがの治療にも使われるボトックス注射も有効です。

ボトックス注射はボツリヌス菌によってエクリン汗腺のはたらきを抑えるもので、半年から1年ほど効果があると言われています。

病院と症状の度合いによっては保険適用ができる場合があります。

胸腔鏡下交感神経節遮断術きょうくうきょうかこうかんしんけいせつしゃだんじゅつ

ETS手術とも呼ばれます。 最近になって多汗症の治療によく使われるようになってきており、効果ももっとも期待できる治療法です。

発汗は交感神経によって行われているため、脇の下から胸部に内視鏡を通し、交感神経節を遮断する手術を行います。

傷は大きくても5ミリ程度で、手術自体は1時間で終わります。 交感神経を切断してしまうため、根本的な改善が期待できます。

胸腔鏡下交感神経節遮断術も、保険適用できる場合があります。

副作用として代償性発汗が起こる可能性

人が汗をかく理由、多汗症の種類と原因、治療について /images/ins-umbrella.jpg

脊椎にある交感神経節を遮断するため、患部だけでなく上半身全体の発汗が抑えられますが、 その反動で下半身の発汗が増えることがあり、対して上半身は乾燥肌を引き起こすことがあります。

この反動で増える発汗のことを代償性発汗と呼びます。 代償性発汗は詳しいメカニズムが解明されていません。

そもそも発汗は体温を下げるために行われる生理現象ですが、交感神経を遮断するため発汗がされなくなります。 発汗を促す交感神経は脳の下にある視床下部ししょうかぶ という部位によって機能しており、 視床下部は体温をさげるために信号を送るものの、発汗はされず、さらに信号を送ってしまうことで代償性発汗につながる というのが現在もっとも有力な考えです。

この副作用を抑えるために、低位交感神経遮断術(低位ETS)という第2から第4交感神経のうち、第4交感神経のみを遮断する手術があります。

低位交感神経遮断術(低位ETS) | 多汗症・手汗の治療は福岡市のおだクリニック日帰り手術外科